提 言 新しい地平を求めて

佐賀県は「探しても無い」と言われる位、存在感の薄い県だといわれるが、島根も鳥取も例外で無い。
未だに島根と鳥取を間違える人が多いのも日本人の忘却地帯となっているからであろう。
この島根には、歴史的伝統を誇る出雲大社、熊野大社があり、日本一の庭園と日本画美術館を
誇る足立美術館、また故郷のアイルランドとの相似性を感じ、日本の民話を世界へ紹介した
小泉八雲の記念館がある。
 昨年、“出雲こそ世界平和の聖地”と出雲からの発信をされている小松昭夫社長のお誘いで
何度は出雲を訪問し、島根県の文化的豊かさに改めて驚いた。
特に西欧美の結晶であるティファニー美術館が松江にあることは、足立実術館とともに東西の
美の融合を感じることができるまたと無いスポットであると感銘した。

ところがこのティファニー美術館は、この3月末日を以って閉館となることを耳にし、第3者の立場
ながら、日本と世界のために、何とかならないものか、有志の皆様ともいろいろ研究して参りました。 
昨年11月22日、出雲での講演の折、コーヘン大使はティファニー美術館のお立ち寄りになり、
展示された300点をご覧になりながら、コメントを述べられた。ルイス・ティファニーがユダヤ人であり、
コーヘン大使と同じ12支派レビ族あること、作品にたいするコメントの数々は、芸術は創作という表面
だけではなく、鑑賞という裏面があること、今後日本人はこの裏面の追創造、鑑賞の術を磨かなければ
ならないと考えさられた。大使はこの折にもティファニー美術館の活用の仕方を湧き出る泉のごとく多く
のアイディアを語ってくださった。本年2月13日イスラエル大使館にティファニー美術館の関係者と大使を
お尋ねした折も、いろいろアドバイスをくださり、後ほど、別紙のようなコメントをお寄せくださいました。

ティファニー美術館閉館の原因についてはネットで公開されているのでご関心のある方はご覧ください。
  小生は美術館、堀内オーナーより頂いた補足資料に目を通しながら、堀内氏の無念な気持ちが伝
わってくる。
事件の概要を初めての方にご説明しておく。中略準備中

問題の発端
ティファニー美術館誘致の宮岡前松江市長の熱情に動かされ、堀内社長は美術館松江に建設する
ことを決定。ところが開館目前の 年、宮岡市長の急逝により、後任の松岡市長を中心とする松江市側
と堀内オーナー側と当初の覚書のずれが生じ、NHKを先頭に報道陣が市側の意見を一方的に偏向報道
したことが、問題を増幅してしまった。

堀内オーナー側は、市に対しても、NHKに対しても十分、事態を修復しえる機会と猶予を与えたにも
関わらず、市側、NHKも保身の言い訳に終始しているように思われる。このことは他人事では無く、
われわれ日本人の
問題点でもある。誤ったことを弁解するよりは素直に謝った方が良い場合がある。ウオーターゲート事件
とモニカ・ルインスキー事件、嘘を言ったニクソンは辞任に追い込まれ、国民に謝罪したクリントンは
大統領職を継続した。今、従軍慰安婦問題、南京事件が難しい問題として浮上している。日本近代史を
どう整理するのか?西原春夫氏著「日本の針路 アジアの将来」によく整理されている。一読を進めたい。

本会の公開質問状に対して松浦市長よりのご返事は別紙の通りである。この内容も堀内氏には、
実の無い回答と移っている。またNHK側に対する公開質問状に対しては、松江放送局村上放送部長
より4回に渡り回答を頂いたが、係争も予想されるので、文書という形は避け、電話でのみ回答でお願
いしたいとのことであった。

小生も問題となった4回のNHK報道の記録を読み返し、NHK側に質問をした。
対話を通じて、NHK側も、最初の4回以降、ティファニーの催しの紹介をしたり、数多くの報道を行った
こと、また地元出身である放送部長が個人的にはティファニー美術館が存続してほしいとの意見の持ち
主であることがわかった。
しかし、NHK松江放送局として「NHKとして調べた結果、この件に関するNKHの一連の報道は、取材した
事実に基づき、松江市の対応や手続きに問題があったことを指摘したもので、事実関係をゆがめて報道
したことはありません。」との堀内氏に対する回答文に対して疑問が残る。平成12年8月31日午後6時の
問題のニュース報道で、宮原利彦放送記者が「今回、問題となっていますレストランは当初は会社が建設
することになっていりました。しかし資金の目途がたたなかったために、会社側は、レストランは松江市が
建設するように強く働きかけていまして、松江市はこれを受けて建設をはじめた訳なのですよ。レストラン
建設というのは、利益を生むための事業、つまり一部の会社の儲けるための事業に、税金を投入するわけ
には行きません。」と報道したことは、明らかに事実に価値観の混入が見られる。NHK側が弁明していうように、
市側の事実を報道した点は確かであるが、当事者の取材を抜きにした一方的報道であり、公正な取材とは
言いがたく、また事実報道と言いながら、NHK放送記者が自分の意見を述べていることに問題があるのでは
ないか?この点、村上放送部長は率直に誤りを認められました。

NHKも放送倫理としてガイドラインを公表している。取材・製作の基本姿勢として、公平・公正の項目には
「事実と意見は明確に区別されるべきである。」「意見が相違する場合には、双方の意見を伝える。
仮に双方の意見を紹介できないときでも異なる意見があることを伝え、同一のシリーズ内または
一定の期間内に紹介するようにする。」「社会的に弱い立場にある人たちの視点を忘れてはならない。」
また正確の項目には「事実関係の誤りが明らかになった場合には、速やかに訂正する」とある。

3C(Criticism, Communication, Creation)は編集や報道に携わる報道陣のイロハである。
一方的な見解でなく、あらゆる批判に耐える客観的情報であるのか?それこそニュースの信頼性が
高まり、それを踏まえての意見の主張(Creation )の説得力を増すというものです。市側の情報が
事実であったとしても、この問題の当事者に聞いて深層を確かめることなく、報道したことは偏向と
いわざるを得ません。また自らの報道陣としての真実追及の勇気も無く、権威によりかかった片手
落ちの取材の怠慢は、NHKという巨大な社会的公器からして決して見逃されるべきではありません。
一体この報道はどのような社会的影響を及ぼすかということを宮原記者はお考えになったのでしょうか?
NHKも国内番組基準として地域社会への貢献を公約しているのではないでしょうか?

 この記者が意見を述べたことを問題としているのではありません。情報過多の時代にあって、
ますますニュース報道、解説者、ニュースを基に将来の展望や提言の述べる言論人の役割は
増すことでしょう。問題は宮原記者は事実報道だとして自分の意見を述べ、その報道の信憑性を
指摘されると、「事実を述べたまでで、責任ない」とNHKが会社ぐるみで彼の保身に回るとは、
不二家や電力会社の以上に卑怯なやりくちと言わざるを得ません。 日本はいまや一億総無責任
時代、世界から注目される武士道もどこへやら、社風も国風もほころびがが目立ちます。

またNHK松江放送局のテレビニュースで報道されたから、日経新聞、共同通信、時事通信等
ごく一部の機関を除くほとんど全ての報道機関が一度もティファニー側を取材することなく、
バスの乗り遅れるなばかりに付和雷同的報道を続けかたことは、事実を見るより他社の動きを
見て、自分なりの独自の意見を待たない日本のメディア無様な醜態を現しています。日本の記者
クラブの談合、外人記者に対する首相との会談制限、情報独占の横暴を糾さずして日本の真の姿は
見えて来ないでしょう。

NHKは問題を繁殖しただけで、元凶は松江市側です。
宮岡前市長の発想の原点に返るべきと考えます。小生は一度のお会いしたことが無いので
わかりませんが、松江に観光客誘致の魅力を増やすという動機があったことは理解できます。
義理、人情に厚い堀内オーナーが心を動かされるくらいですから、きっと、ティファニー芸術の
価値も十分知っておられたことでしょう。
今後第2の土地へ移転することになるかも知れませんが、どこであっても、ティファニーの美術品は
人類的遺産として世界に誇るものであること、これ守り発展させようとの高邁なビジョン、動機を
受け入れ側とオーナー側で共有すべきでしょう。
 この理想の実現のために自分は何が出来るか?相手に要求する前に、自分が何を貢献できるか
問うべきでしょう。この点、堀内氏の貢献に対して、市側、地元有力マスメディアの対応は、まったく
「恩を忘れた非道な仕打ち」と言って良い。

今後のためにもう1つ忘れてはならない視点は、カスタマーの視点です。ティファニーに多くの
意見が寄せられていますが、カスタマー主体の第3セクターを発足され、美術館と平行した
自主的に活動させることです。世界の著名な美術館には美術館のファンの同好会が多く、
美術館の活動は勿論、美術品の確保、維持にも大きな役割を果たしています。コーヘン大使の
さまざまの提言は如何にティファニー美術館を活用するか、このカスタマーの視点からの提言が多かった。

安倍首相は政権構想として「美しい国、日本」を掲げている。美とは何であろう?
自然環境の美しさ、人間社会の麗しさ、そして人間精神の美しさがある。自然との調和を
忘れた西欧科学技術文明の行き過ぎを癒す役割を日本文明に期待されている。社会の
美しさは互いに相手の為に生きる善意の中に生まれる。人間の内面的美は崇高なものへ
の献身、自己犠牲より生まれる。美しいという字の語源は大きい羊、祭壇の捧げ物としての
羊、大きな供え物が美という意味を持っている。
全てを金の価値としてしか見なくなってしまっている日本の憂うべき現状、芸術は経済的
価値を超えた、はるかにあるものであることに目覚めるべき時であろう。
ティファニーの芸術作品、その魂を洗われるような素晴らしい美的精神にたち返って、
ティファイーの精神が全日本、世界へ伝播する日の近いことを祈念しています。今回の
事件は、単に当事者同士だけの係争問題ではなく、島根県、日本、そして世界ののっぴき
ならない問題でもあります。政治家を始め関係諸氏の一層の自覚を促したい。